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ドイツの自然療法・生活療法を訪ねる

バート・ナウハイム

ザリーネが発するマイナスイオンと
ミネラル豊富な炭酸泉の街

バート・ナウハイム

古代の製塩装置・ザリーネを利用した「呼吸療法」。
炭酸ガスとミネラルを含んだ鉱泉水の「温泉療法」。
バート・ナウハイムはフランクフルトから北へ一時間弱の距離にある療養の街です。


生命の水、ソーレ

バート・ナウハイムの街には「ウーサ川」という小川があります。流れる水には塩分が含まれ、その塩水を人々はソーレと呼んでいます。
発掘遺跡によれば、この周辺にはその塩水を求めて、紀元前の遥かに昔から人間が住んでいた形跡があるといいます。紀元前5~6世紀には北方民族のケルト人が住み、この塩水で製塩を始めています。紀元後になると北上したローマ人が住みつき、2~3世紀にはゲルマン民族が、5~6世紀にはフランケン民族がこの塩の小川を支配します。

5世紀にはすでに、水車とザリーネ(製塩装置、詳しくは後述)によるシステマチックな製塩技術が開発され、中世期にはドイツを代表する製塩の街として栄えていたといいます。

治療の装置に生まれ変わった
巨大な製塩装置・ザリーネ


街の中心を広大なクアパーク(療養のための公園)が占めています。
その公園の数ヶ所に、高さ15メートルほどの黒くて長い、不思議なトンネル状(高架)の建造物があります。その建造物はザリーネ(SALINE)といい、古い時代の製塩装置なのだそうです。

トンネルの両壁は、樹木の小枝を幾重にも編み重ねてつくられています。そのてっぺんから、水車で汲み上げられた塩水が小枝の網目にぶつかり合いながら、ゆっくりと滴り落ちています。日光と風で水分は蒸発し、足元の水路に落ちる頃には高い濃度の塩水になります。かつては、その塩水を煮詰めて「塩」を造っていました。
ちなみに、塩水は今でも自動水車によって15メートルの高さまで汲み上げられています。この水車による汲み上げ方法は、5世紀頃には開発されていたと考えられています。

19世紀に入り、他の地域で岩塩の採集が進むと、生産性の低いザリーネの製塩方法は競争に負けて衰退していきます。
その一方で、ザリーネで働く人々の間に、ザリーネの空気に触れるとカラダが元気になる…という言い伝えがありました。19世紀には一般の人々にもそのことが知れ渡り、ザリーネの空気を求めてカラダに不調を抱える人々が集まって来るようになります。
やがて、ザリーネのトンネル内の空気には大量のマイナスイオンが含まれていて、健康回復を助けることが医学的に証明されます。すると、利用者はますます増えて、ザリーネは「治療の装置」として蘇ることになります。

治癒力を引き出す
ザリーネのマイナスイオン


ザリーネの内部は板張りの歩道になっています。黒々とした長いトンネルには屋根がなく、頭上高くに青空が長い絨毯を敷いたように見えます。内部はシンと静まり返っていて、まるでゴシック様式の教会に入ったような、厳かな気持ちになります。耳を澄ますと、カラダにかすかな水滴の音が沁み込んできます。
小枝の網目を滴り落ちる塩水は、ぶつかり合って飛沫になります。その時に大量のマイナスイオンが発生します。そのマイナスイオンの空気を呼吸しながら、トンネル内の百メートルほどの歩道を、クア(療養)の人々はゆっくりと歩いています。

マイナスイオンには心身の鎮静作用や、血圧の安定、免疫力の回復、活性酸素の消去などの生理作用があるといいます。現在のザリーネは、そのマイナスイオンの吸入と歩行運動を組み合わせた、極めてユニークな治療装置なのです。

喘息の患者さんは、ザリーネを利用した呼吸・運動療法を1日に数回、2週間から3週間続けると、すっかり改善するといいます。また、その他の呼吸器系疾患、高血圧、睡眠不良、さまざまなストレス性の病気の改善にも役立つといいます。

療養の人々はおよそ30分間、トンネル内の歩行を続け、その後、ザリーネの横のベンチや芝生でのんびりと日光浴をします。日光には気持ちを明るくする、ウツを改善する、自律神経を調整する、免疫力を高める、カルシウムの吸収を助ける、皮膚の健康を保つ…などの、さまざまな生理作用があるからです。

 もちろん、バート・ナウハイムで処方される喘息の治療プログラムはこれだけではありません。喘息の改善に必用な、ストレスケアのためのさまざまな精神療養、基礎体力を強化する運動療法、近代設備のインハレーション(吸引療法)、体質改善のための食事療法、そして植物(薬草)療法と、基本的な治療プログラムが処方されます。
 また、病状に応じて、その他の自然療法、物理療法が加えられます。 

それにしても、古代からのこの巨大な製塩装置を、治療に利用するなんて…。ドイツの自然療法のフトコロの深さに、ついつい感動。このザリーネに出会ったことで、私はドイツの自然療法をさらに深く知りたいと思うようになり、多くの保養地を訪れことになってしまいました。

炭酸泉の治療の館
シュプーデル・ホーフ


バート・ナウハイムの中心には炭酸ガスを含んだ微温の鉱泉が湧き出ています。製塩所で働く人たちは、古くからこの鉱泉をカラダの治療に使ってきたといいます。近代になり、1823年、彼らは自分たちのための治療用の入浴場を建設します。数年を経て、それが一般の人々にも開放され、1834年、温泉療養地としてのバード(BAD)の称号が認可され、街の名をバート・ナウハイムと呼ぶようになります。

1835年、9つの浴室とゲストルームを持つ二階建ての温泉治療施設が建設されます。湯治客はどんどん増えて、19世紀の終わりに新しいバーデハウス(温泉治療所)のシュプーデル・ホーフ(墳泉の館)が建設されます。それが、現在、街のシンボルになっている温泉治療館です。そして街は、近隣諸国の王侯貴族も訪れるクア(療養)の街に成長していきます。

ドイツ皇帝、ゲーテ、マルガレーテも利用した
温泉治療館


街の中央は、広大な面積のクアパーク(療養のための公園)です。そのクアパークを囲んで、様々な医療施設や療養の人々の宿泊施設、社交場(クアハウス)などが並んでいます。
保養地の宿泊施設にはクアドクターが居て、必用な治療施設が整えられています。その他にパブリック(公共)な治療施設があります。

街のシンボルであるシュプーデル・ホーフ(温泉治療館)はパブリックな治療館で、クアパークの北端にあります。
施設の中央広場に、二つの噴泉(微温の鉱泉)が湧き出ています。泉水は赤茶色で多くのミネラルと塩分を含んでいます。その噴泉を取り囲むように、当時(19世紀)流行のアールデコの装飾を取り入れた、ユーゲント様式のレンガ色の建物があります。建物はとても複雑で、7つの治療棟がまるで中世の迷路のように連なっています。それぞれの棟には装飾の異なる回廊式の中庭があります。
 
メインの治療棟に、重厚な寄木細工の円形のホールがあります。ここは治療の受付所と待合室で、時にはグループセラピー(精神療法などの治療を集団で行うこと)や、患者さんの教育などにも利用されます。
ホール正面のガラス窓の向こうの、回廊式の中庭には噴水と花々が見えます。その中庭を囲んで、個室の治療浴室やさまざまな治療室が並んでいます。
 
この治療館では、炭酸泉の入浴療法、ファンゴ(鉱泥)療法、クナイプ式水治療、さまざまな治療マッサージ、ハーブ療法、中国の漢方治療、インドのアーユルベーダ、最新の光線療法、電気治療、整体療法などを受けることができます。

ちなみに、ドイツの治療入浴は、日本のように大きな浴槽に入るのではなく、個室の浴槽で、温泉療法士さんの手に寄る治療法です。
また、治療は一種類だけで終わりということではありません。温泉治療の後に薬草茶を飲み、鍼治療とマッサージを受け、その後、一眠りする…というように、いくつかの治療が組み合わされて施されます。その方が、相乗効果が高まるからです。

治療の組み合わせプログラムは、病状に応じてクアドクター(療養の専門医)が処方してくれます。また、治療の経過に応じてプログラムが変わっていきます。
療養客は、パブリックな治療館で治療を受ける時も、その処方箋を持って行きます。
(個別の治療法については、×章をご覧ください)

ここシュプーデル・ホーフには、ドイツの最後の皇帝・ウィルヘルム二世、ロシア皇帝のニコライ、オーストリア皇女で絶世の美女・マルガレーテ、詩人のゲーテなどがたびたび療養に訪れたといいます。今でもマルガレーテ専用だった金色のモザイクタイルの浴室が残されていて、予約すると一般客でも利用できます。

微温の炭酸泉が
こころとカラダを沈静させる


シュプーデル・ホーフの特徴的な入浴療法に、高血圧の改善のための治療入浴があります。炭酸ガスを含んだ微温の鉱泉(約35℃)をバスタブに入れ、全身を沈めます。すると、水に溶け込んでいた炭酸ガスが皮膚に触れて、まるで魔法のように、乳白色の細かい気泡が全身を覆います。その気泡が皮膚から離れていく時に、こころとカラダを沈静化して血圧を安定させます。
この治療入浴を繰り返していると、高血圧が改善するといいます。他にも自律神経の調整や、不眠症、さまざまなストレス性の疾患、アトピー性皮膚炎の改善などにも役立つそうです。

治療のための遊歩道
テラインクア


街は徹底した環境保護に守られています。公共の駐車場は、車が人目に触れないように植木で覆われています。公園や通りには、「静かに」というプレートが、自己主張せずにひっそりと置かれています。街中の車道の横断は療養客が優先で、車は必ず止まってくれます。車椅子の通行にも困らないようにと、歩道の段差に工夫があります。

クアパーク(療養の公園)には、地形の起伏を利用した治療のための遊歩道(テラインクア)があります。テラインクアとは、遊歩道に起伏やカーブをつくり、歩行運動に負荷の変化を与えて、心臓や呼吸器、そして足腰の筋肉を強化するために設計された遊歩道のことです。
その遊歩道を、よく手入れされた緑の芝生が取り囲んでいます。ところどころに巨木が茂り、泉や噴水、お花畑や日当たりの良いベンチがあります。その道を、療養の人々が日差しを浴びながら、ゆっくり、ゆっくりと歩を進めています。まさに治癒の道です。

薔薇の村へ

 道が交差する角地に、薔薇の花を売るお婆さんを見かけました。「その花はどこから…?」と問うと、「隣村だよ。薔薇の村というの…」といいます。
翌日、その村に向かいました。車窓に薔薇の香りが漂い始め、村が近づいたことが感じられます。見渡す限り、薔薇の園が続いています。家々もまた、建物が見えないほどのツタ薔薇に覆われています。薔薇、薔薇、薔薇…。これほどの圧倒される薔薇の花を見たのは初めてのことです。
「薔薇の村」が本当に村の名前とは、なんてロマンチックなこと。

年間の利用客は70万人

バート・ナウハイムには、他の保養地と同様に、クアパークやコンサートホール、クアハウス(療養客のための社交場)などの文化・娯楽施設が整っています。
クアパークの周りには、糖尿病、心臓病、リウマチ、自律神経失調症、パーキンソン病などのさまざまな病気別の専門クリニックが多数あります。また、この街では多くの医学会も開催されます。そして、1年間に70万人もが訪れるといいます。

ドイツ人の場合、こうした滞在治療には健康保険が適用されます。ドイツの保険に加入していない場合は自己負担になりますが、その場合は、診察費、いくつかの治療費、ホテル(三ツ星クラス)の宿泊費、食事代などを含めて、一週間の費用は10~15万円程度(症状と治療法、宿泊施設のランクによって金額は異なる)で、決して高い金額ではありません。
ただし、問診や治療の説明のために、ある程度の英語の会話能力が必要です。ドイツ語の必要はありません。


●マイナスイオンによる呼吸療法
マイナスイオンを含んだ空気には、心身の鎮静作用、血圧の安定作用、免疫力の回復作用、活性酸素の消去作用などがあります。喘息、高血圧、睡眠不良、ストレス性の病気などの改善に役立つといいます。

●グループセラピー
同じ病気を持つ人々が集まり、抱えている悩みや、生活の工夫などを話し合うことによって、お互いを支えあう治療法です。
一人では孤独におちいったり、治療の継続に挫折したりしがちです。しかし、皆が集まり励ましあうことによって、それを防ぐことができます。また、「自分で治す」という積極性と、「治って元気になれる」という希望を与える効果があります。

●炭酸泉・微温入浴
微温(約35℃)の炭酸泉入浴には、心身の沈静作用、自律神経の調整作用、副交感神経の活性作用などがあります。
高血圧、喘息、不眠症、アトピー性皮膚炎、ストレス性の病気などの改善に役立つといいます。

●日光浴
日光浴には、気持ちを明るくする、季節性ウツ病を改善する、自律神経を調整する、免疫力を高める、カルシウムの吸収を助ける、皮膚の機能を強化する…などの、さまざまな生理作用があります。
日光に含まれる紫外線は、皮下脂肪をビタミンDに変える働きをします。そのビタミンDは、カルシウムの吸収を助けると共に、多くのがんの発生を防ぐ働きをするといいます。

●光線療法
太陽光線と同様の、可視光線、赤外線、紫外線を含んだ人工光線を浴びる治療法です。
日光浴と同様に、アトピー性皮膚炎、乾癬などの皮膚疾患や、季節性ウツ病、不眠症などの改善に効果があります。


バート・ナウハイム
ヘッセン州の中部、フランクフルトから北へ車で一時間弱の距離にある温泉保養地。鉄道のアクセスもある。

HESSISCHES STAATBAD BAD NAUHEIM
LudwigstraSe 20-22
61231 Bad Nauheim
TEL 06032-344-222
FAX 06032-344-239



by na-toshihiko | 2010-07-26 15:59 | バート・ナウハイム

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