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ドイツの自然療法・生活療法を訪ねる

ドイツの自然療法・生活療法

はじめに

長岐俊彦
医療ジャーナリスト


 このサイトでは、ドイツのいくつかの保養地と、そこでの治療プログラムをご紹介します。
 保養地、あるいはヘルスリゾートというと、日本の方々の多くはレジャー施設のある観光地と誤解されます。
 しかし、ここでご紹介する保養地は、街全体が一つの医療施設として計画された、完全な療養の街のことです。
ちなみに、ドイツにはクア(療養)という医療制度があり、健康保険が適用されています。その保養地(ヘルスリゾート)を「クアオルト」といいます。
 
自然環境と生活行為を利用して体を治す

クアにおける治療法は、基本的に「生活療法」と「自然療法」です。
自然療法とは、きれいな空気、日光、温泉(鉱泉を含む)、清水、森林、自然の起伏、高原、海洋などの「自然環境」を利用するもの、薬用植物や野菜の有効成分などの「自然の素材」そのものを利用するものなどいいます。
 生活療法とは、食事、運動、休息、入浴、娯楽、睡眠…などの、日常の「生活行為」を利用するものをいいます。

 自然療法、生活療法というと、日本人の中には、何やら怪しい治療法と思われる方がいらっしゃるかも知れません。しかし、多くの病気の原因が不健康な生活習慣と、不健康な生活環境にあることを考えるならば、薬で症状だけを押さえ込む「現代医療」に比べて、生活療法、自然療法は、はるかに優れた、そして最も自然な「健康回復法」であると思います。

 ご紹介する保養地の治療法には、そんなことが本当に治療効果があるの…と思われるものもあるかも知れません。しかし、元来、人間は自然との関係の中で生存してきたのですから、自然界には体の生理反応を有効に動かすものがたくさんあります。
 日本の現代医療が、いつの間にか「薬万能主義」になってしまったために、自然環境や自然の素材が、「体の治す力」を引き出してくれることを忘れてしまったのです。
 
生活療法と自然療法の組み合わせによって
相乗効果を引き出す

 
 クアの目的は、一時的に病気の症状を治すということではなく、「病気の原因が潜んでいる体の根本を正し、その結果として病気を治す」ことにあります。そのため、クアでは生活の全てを利用し、それに自然療法を加えて治療を行っていきます。
 その結果、体質が改善され、生活習慣も、気持ちも変わり、病気になる前よりも元気な体と心を手に入れることができる…といいます。
 
 日本でも、薬一辺倒ではなく、こうした考えの医療がいつの日か実現することを願ってみません。 



# by na-toshihiko | 2010-08-18 14:52

ドイツ・自然療法との出会い

ドイツ・自然療法との出会い


長岐俊彦
医療ジャーナリスト


体には治す力がある

私たちの体には、病気を防ぐ力があります。それを「免疫力」といいます。
また、病気や怪我をしたとしても、体にはそれを治す力が備わっています。それを「自己治癒力」といいます。
しかし、免疫力や自己治癒力は、どんな場合にでも十分に発揮されるわけではありません。例えば、不安定な精神状態、睡眠不足、疲労の蓄積、悪い栄養バランス、運動不足…などが続くと、その力は低下し、病気を進行させることになります。
そこで、免疫力や自己治癒力を維持するためには、こころの安定、十分な睡眠、良質な食事、休養、適度な運動などを欠かすことができません。

病気を治すのは自分自身

今から十数年前、私は医療の取材にドイツを訪れました。
何人かの医療専門家にインタビューした中で、ベルリン自由大学医学部・自然療法科・部長教授(当時)のマールテ・ビューリング先生との出会いは、医療に対する私の常識を根本からくつがえすものでした。
それまで私は、「病気は医師や薬が治してくれる」ものと信じ込んでいました。ところが先生は、「病気を治すのは自分自身なのです」といいます。
また、『病気の原因は自分の「体とこころ」にあるのだから、薬で症状を消すだけではなく、その体とこころを根本から改善する必用があります。そのためには、生活習慣を改めるとともに、自然療法や生活療法を利用しながら、病気に負けない体とこころをつくることが大切』といいます。

自然療法・生活療法とは、薬を使わずに、自然環境や自然の素材、日常の生活行為を利用して体の不調や病気を治す治療法のことです。
現代医療の先進国・ドイツで、自然療法・生活療法という治療法が行われていることが信じられませんでした。
すると先生は、『ドイツには自然療法・生活療法を集中して行う「療養のための保養地」が全国にあるので、もし興味があるのなら、その実際を見てみなさい』といいます。

そこで私は、ドイツ国内の保養地を巡り続けました。
そして、現在の日本の医療に欠けている「もう一つの医療」に出会いました。
また、私たちの体には「治す力」があることを学びました。

自然療法・生活療法とは
自然環境、自然の素材、生活行為を利用する
治療法のこと


自然療法・生活療法とは、自然環境や自然の素材、生活行為を利用して、自分で治す治療法をいいます。
自然環境とは、きれいな空気、日光、清水、樹木、森林、自然の起伏、高原、海洋、気候(気温)などのことです。自然の素材とは、植物や野菜の有効成分、鉱泉、鉱泥などのことです。生活行為とは、食事、運動・休息・入浴・娯楽・リラクゼーション・睡眠、生活のリズム、生活の節制などをさします。
 
自然療法・生活療法の目的は、薬で強制的に病気の症状を消すのではなく、「病気の原因が潜んでいる体の根本を正し、その結果として病気を治す」ことにあります。そのため、治った後に再発することが少なく、また、前にもまして元気な体を手に入れることができるといいます。

日本の医療は間違っている

現在、日本には生活習慣病や、現代病といわれる複雑な体調不良が増え続けています。
日本では、その治療には薬が処方されるだけです。そして治らずに、死ぬまで薬を飲み続けなければならない人がたくさんいます。高血圧の患者さんに「降圧剤」を与えても、一時的には血圧が下がりますが、根本治癒にはなりません。アトピー性皮膚炎の患者さんに「ステロイド剤」が処方されますが、これもまた根本治癒にはなりません。ウツ病の患者さんに「抗ウツ剤」を与えても、解決はできません。
生活習慣病、現代病の多くは薬だけでは治せない病気なのです。むしろ、その改善には自然療法・生活療法が有効です。しかし残念ながら、日本の医療(健康保険が適用される)の中には、自然療法・生活療法は含まれていません。
なぜ日本の医療は、体やこころの根本的な改善を忘れて、一時的に症状を抑える「薬づけの医療」になってしまったのでしょうか?
なぜ日本には、自然や生活を利用して、病気や体調不良の改善を図る「医療施設」や「保養地」が存在しないのでしょうか?
 
ドイツの保養地医療の取材を重ねているうちに、日本の医療は大きく偏っていることに気付きました。本音をいうと、日本の医療は間違っています。
 
そんな思いから、ドイツにおける自然療法・生活療法の実際と、その治療に専念できる保養地のいくつかを書きとめてみました。ぜひ、お読みください。
そして、同じ思いを持たれる方は、ぜひ、お便りをください。
 
 



# by na-toshihiko | 2010-07-26 17:36 | ドイツ・自然療法との出会い

ドイツの自然療法・生活療法

ドイツの自然療法・生活療法

薬を使わずに、自然環境や日常の生活行為を利用して体の不調や病気を治す。
その上、病気を抱える体質そのものを改善する自然療法。
現代医療とは異なる、ドイツのもう一つの医療をご紹介します。


ドイツと日本の医療の違い

日本人の多くは、病気になった時に薬で治そうとします。また、薬を出してくれる医師は「親切な医師」で、薬をくれない医師は「ダメな医師」と思いがちです。
一方、ドイツの人々は病気になった時に、すぐに薬や医師に頼るのではなく、まずは自分で治す努力をします。その方法の一つに、おばあちゃんに教わった薬草(ハーブ)の利用や、食事の工夫、体の保温、十分な睡眠などの、いわゆる伝統的な家庭療法があります。また、さまざまな「自然療法」を紹介した一般向けの良質の医学書が普及しているので、その中の治療法を利用する場合もあります。
医師もまた、患者に自分自身で治す努力や自然療法の利用を勧めています。

もちろん、ドイツでも「現代医学(日本でいうところの西洋医学)」による治療法が一般的に行われています。ケガや急性の感染症といった早急に治療を必要とする病気には、即効性のある現代医学の治療がほどこされます。また、安静が必要な場合には、病院に入院して治療を受けます。
一方、さまざまな生活習慣病や、慢性病、肥満、免疫疾患、ストレス性疾患、虚弱体質、あるいはまた老化による身体機能の低下などの、薬だけでは根本治癒の難しい病気や体調不良の改善には、自然療法が利用されます。
また、自立した生活が可能であれば、保養地に長期滞在して自然療法でじっくりと健康回復を図る「転地療養」を選ぶことができます。その転地療養を「クア」と言います。

*クアについては、後述の<自然療法と生活改善に専念する「クア」という医療制度>をご参照ください。

生活行為+自然素材+自然環境
を組み合わせて体を治す


さて、ドイツにおける自然療法とは、どんな治療法を指すのでしょうか?
日本人にとって分かりやすい自然療法の一つは、ヨーロッパで広く利用されているハーブ(薬草)療法でしょう。
実は、自然療法にはたくさんの種類と、目的に合わせた治療法があります。まずはその概要をご説明しましょう。
自然療法を大別すると、体の根本治癒に欠かせない基本療法、生活行為を利用するもの、自然の素材を利用するもの、自然環境を利用するもの、専門治療師による治療などに分類されます。

◆基本療法
基本療法とは、病気を抱える体質そのものの改善、生理活性、基礎体力の強化、心の安定、生活の節制などの、健康な体を再構築するための基本的な治療法のことです。これには食事療法、運動療法、精神療法、規律療法があります。また、それぞれの中にはたくさんの治療法があります。(詳細は後述)
・食事療法
・運動療法
・精神療法
・規律療法
この四つの基本療法は、建物でいうと土台と構造作りに該当する治療法です。

◆生活行為の利用
生活行為とは、基本療法に重複しますが、食事、運動、呼吸、休息、リラクゼーション、娯楽、入浴、睡眠などのことです。また、生活の節制や規律ある生活を送ることも、治療に欠かせない要素になります。

◆自然素材の利用
治療に利用される自然素材には、薬用植物(ハーブ)や、食べ物の有効成分、温泉(鉱泉を含む)、鉱泥などがあります。

◆自然環境の利用
自然環境とは、きれいな空気や、日光、清水、草花、森林、自然の起伏、高原、海岸、気候(気温)、あるいはまた公園(治療用に設計された)などのことです。例えば、日光浴や森林浴、気候療法、高原療法などがこれに該当します。

◆専門治療師による治療
専門治療師による治療には、さまざまなマッサージや、温熱治療、吸引療法、ハリ治療、体の矯正治療、電気治療などがあります。ドイツ特有のクナイプ式水療法もこの中の一つです。(詳細は後述)

自然療法の多くは、体の生理反応を利用(活性化)して治癒力を高める治療法です。
その応用には、体質を改善するもの、生理反応を引き出すもの、精神状態を安定させるもの、症状を緩和するもの…など、それぞれの役割をもつ治療法が組み合わせてほどこされます。その方が、相互作用によってより高い効果を得ることができるからです。

ちなみに日本では、サプリメントだけ、アロマだけ、マッサージだけ、運動だけ…と、単独での応用が一般的ですが、それだけでは十分な効果を得ることができません。

体質を改善して
病気を根本から治す


自然療法が向いているのは、偏った生活習慣が原因の病気や、心理的要因が原因の病気、免疫の異状が原因の病気、身体機能の障害などの、薬では治療の難しい病気や体調不良です。
例えば、
・悪い食生活や肥満からくる糖尿病や高脂血症
・心臓・循環器系疾患、呼吸器系疾患
・消化器不全
・婦人科系疾患
・自律神経失調症や不眠症などのリズム障害
・免疫の異常によって発症するアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症
・その他の、さまざまなストレス性疾患
・リウマチや神経痛、関節痛、腰痛
・老化に伴う体の機能障害
・また、ケガや骨折などのリハビリ
などと、じつに多岐に渡ります。

これらの病気や体調不良の改善には、
・偏った体質を改善する
・抱えているストレスを解消する
・精神状態を健全にする
・生理反応を正常にする
・自己治癒力を高める
・身体機能の回復に努める
などの、「体とこころの改善」が必要です。

自然療法の多くは、その「体とこころの改善」を目的にしています。また、自然療法の多くは自分自身で実践する、極めて能動的な治療法です。そして、体とこころが改善していくに従って、体調不良は消え、病気も治っていきます。その上、病気になる前よりも健康な体を手に入れることができます。

自然療法と生活改善に専念する
「クア」という医療制度


ドイツには保養地に滞在して自然療法と生活改善に専念する「クア」という医療制度があります。「クア」とは「転地療養」のことです。クアには治療費はもちろん、滞在費にも健康保険が適応されます。そのための保養地を「クアオルト」といいます。
クアは病気や症状を治すだけではなく、「体質からこころの問題」までの改善を図る、日本にはない医療システムです。

保養地で療養…というと、日本では「温泉湯治のようなもの」と思われるかも知れませんが、実際は大違いです。日本の湯治は、温泉に入り、ついでにマッサージを受ける程度のものでしかありませんが、ドイツにおけるクアは、クアの街として認定された保養地で、サナトリウムや、あるいは医療体制の整ったホテルに滞在して、さまざまな自然療法による治療と、生活習慣の改善を行う、極めて全人的な総合医療なのです。

クアは主に、生活習慣病や慢性病、肥満、免疫疾患、虚弱体質、ストレス性疾患、老化に伴う身体機能の低下などの改善や、病後の体力回復などに利用されます。
例えば、悪い食生活や肥満からくる糖尿病や高脂血症、心臓・循環器系疾患、呼吸器系疾患、消化器不全、婦人科系疾患、自律神経失調症や不眠症などのリズム障害、免疫の異常(ストレスが原因)によって発症するアトピー性皮膚炎や喘息、リュウマチや神経痛、関節痛、腰痛、老化に伴う体の機能障害、またケガや骨折などのリハビリ…などです。
これらの病気や体調不良は、薬で抑える治療法だけでは根本的な解決ができません。むしろ、自然療法と生活行為を利用して、病気を抱えた体を根本から立て直す「クア」こそ、有効な治療法なのです。

クアにおける多様な自然療法

クアは、先ほどの四つの基本療法に、植物(薬草)療法を加えた五つの治療法を土台にして進められます。
体質を作りかえる「食事療法」、体を動かして生理活動を活発にする「運動療法」、植物の薬効成分を利用する「植物療法」、病気の原因の一つであるストレスや悲観的な感情をコントロールする「精神療法」、生活習慣を正して体のリズムを作り直す「規律療法」です。

・食事療法
・運動療法
・植物(薬草)療法
・精神療法
・規律療法


その上に、病状に応じてさまざまな治療法が加えられ、治療プログラムが作成されます。
例えば、温泉の利用(入浴、飲泉)や、泥浴・サウナなどの温熱治療、マッサージやハリ治療、体の矯正治療、水蒸気の吸引治療、電気治療、人工光線を用いる光線療法などです。ドイツに特有な自然療法の一つであるクナイプ式水療法(後述)も利用されます。

クアの生活では、クアドクター(総合医)、専門医、食事療法師、運動療法師、精神療法師などがチームになってお世話してくれます。ちなみに、療養客を「クアゲスト」といいます。
診察はクアドクター(総合医)が行い、クアの処方箋(治療プログラム)を作成します。病気によっては専門医も一員になります。専門家の手を必要とする治療はテラピスト(療法師)が担当し、食事や運動、精神面などの療養生活のさまざまな側面を専門家がサポートしてくれます。レストランやカフェでも処方箋を見せると、それに応じた食事やハーブティーを出してもらうことができます。街の中心にあるクアパーク(後述)の利用にも、その処方箋が必用です。
また、治療プログラムは病気や体調の改善に合わせて調整されていきます。

5つの基本療法の概要

●食事療法
食事を利用して、体質の改善や病気の治癒を図る治療法です。また、絶食や食事の制限などもこの中に含まれます。
クアで提供される食事は、完全無農薬の有機栽培の素材に限られ、病状に応じて栄養バランスやカロリーなどがコントロールされて提供されます。

●運動療法
体を動かすことで、生理活動の活性や身体機能の回復、免疫力の向上などを図る治療法です。また、体質の改善やストレスの解消、精神力の強化などにも応用されます。
クアオルトにはクアパークをはじめ、リハビリ施設やスポーツ施設(治療のための)、サイクリングコースなどがあります。クアオルトでは身体機能のリハビリから体力の強化までの、幅広い運動療法の実践が可能です。

●植物(薬草)療法
薬草や、植物の機能性成分を用いる治療法です。
クアで利用される薬は植物性が原則です。また、病気(症状)別に作られたハーブティーや、薬草の湿布、薬草入浴、薬草成分の入った水蒸気の吸引、香りの利用など、植物療法にもさまざまなものがあります。

●精神療法
病気の発症に関わるストレスや、悲観的な感情などの心理的要因を解消する治療法です。クアでは、リラクゼーション、瞑想、娯楽による楽しみなどの、精神面のコントロールがとても重要視されます。

●規律療法
緊張とリラックス、運動と休息、仕事と休日というように、対極にあるものを組み合わせることによって、体と心の一体感を作り、生理的なバランスを調整する治療法です。また、生活の節制や、規律ある生活を送ることも規律療法の大切な要素です。
 
治すのは患者自身
それを支える医師・療法師


クアの治療に当たるのは、クアドクター(総合医)と専門医、療法師(テラピスト)です。クアオルトに到着すると、まず始めにクアドクターによって診察や検査が行われ、治療のプログラムが作成されます。治療方法は自然療法でも、検査は最先端の設備と技術で行われます。その点は、いかにも科学の国・ドイツらしいところです。
クアゲスト(療養客)はそのプログラムに従い、通常は3週間滞在して、病気の治療と体質改善に取り組んでいきます。(病状によってはもっと長く滞在することがあります)
ファンゴ(泥)療法やハリ、マッサージ、整体、水療法などの治療は専門の療法師が担当します。ちなみに、ドイツにはハイルプラクティカーという制度があり、療法師は医師に準じた資格を持っています。

しかし、クアでの主役は医師や療法師ではなく、クアゲスト自身です。医師を指揮者に、療法師を伴奏者に、そしてクアゲストを歌手に例えれば分かりやすいかもしれません。病気を持つ体を治すのはクアゲスト自身であり、医師や療法師はそれを手助けして導いていくガイド役…という位置付けです。
クアの生活を通して、クアゲストは病気や体の不調を引き起こした「原因」を理解することになります。そして、その改善方法を学び、さらに状態を悪くすることのない、また再びそのような状態を招かない生活習慣を身に付けて帰って行きます。クアでの治療法の多くは、症状の治療というよりも、病気に負けない体をつくることや、セルフケアのためのトレーニングといってもよいでしょう。

生活行為を利用して体を治す

薬の治療に慣れきってしまった日本の方々には、生活を利用する治療法といっても、すぐには理解しにくいことでしょう。
クアの目的の一つは、病気の原因の一つである「体質とこころ」の改善にあります。そのため、治療には食事、運動、休息、リラクゼーション、入浴、娯楽、睡眠などの、体質の形成や精神面、自己治癒に関わる全ての生活行為が利用されます。ですから、それは生活そのものを薬にする「生活療法」といってもよいでしょう。

●食事
私たちの体をつくる原料が食べ物であることを考えれば、その人の体質の改善につながる良質の食事も治療の一環といえます。
●運動
体の生理活動を高め、基礎体力や運動能力を向上させるためにはとても大切なことです。一番簡単な運動の一つはウォーキングですが、それにはクアパークが利用されます。
●休息
体のリズムを作るために、運動には必ず休息が組み合わせられます。
●リラクゼーション
現代病の多くにはストレスが関わっています。そのため、リラクゼーションや瞑想、あるいは娯楽などによるストレスの解消もまた大切な治療法なのです。
●スポーツや娯楽
生活のメリハリや、明るく前向きな気持ちで過ごすことも、治療効果を高める大きな助けになります。
●入浴
泉質や温度、入浴方法などによって、さまざまな生理活動を引き出すことができるので、治療の助けになります。
●睡眠
体の治癒活動は睡眠中に行われます。そのため、夜の熟睡はもちろん、昼寝も大切な治療法です。

変化に満ちた生活リズムが
治癒を高める


クアでは毎日の生活リズムがとても重要視されます。
例えば、朝早起きをして新鮮な空気の中で体を動かし、芝生の上の瞑想で気持ちを鎮め、ベンチで日光浴をし、スポーツで汗を流し、ハーブティーやナチュラルな食事を楽しみ、昼寝で体を休め、自然療法による治療を受け、ぬるめの温泉にゆっくりとつかり、さまざまな生活トレーニングや病気の仕組みを教わり、コンサートやダンスを楽しみ、夜は早めにぐっすりと眠る…という、変化と楽しみに満ちたものです。
このように、一日の生活リズムをしっかりと刻むことは「規律療法」の一つで、体とこころの調和を図り、自律神経のバランスを整え、体の生理反応を活性化させ、自己治癒力を高めてくれます。
つまり、クアでは朝起きてから夜眠りにつくまでの生活そのものが「薬」と「治療」なのです。

さらにまた、クアの治療プログラムには、帰宅後の再発を防ぐための「生活トレーニング」が折り込まれます。完治しにくい病気の場合でも、症状が軽くなった状態を維持しながら、再び悪化させない「セルフケアの方法」が教育されます。
クアはまさに「リゾートホテルへの長期滞在」という感じで、豊かな自然の中で毎日を楽しみながら進められます。日本の病院のように、パジャマ姿で一日中ベッドに拘束されているわけではなく、「病気の治療」につきものの悲壮さもありません。

厳しい条件に守られたクアオルト

クアオルトとは、クア(療養)のために計画された医療の街のことをいいます。保養地がクアオルトとして認定されるためには、とても厳しい条件があります。

・体と心の治癒に役立つ自然環境であること。
・クアの医療スタッフと治療施設が整っていること。
・治療用の公園・クアパークがあること。
・提供される食品は無農薬の有機栽培や自然なもので、原則的に地元産のものであること。
・車の進入は規制され、公害が無いこと。
・リラクゼーションや安眠を妨害する騒音が無いこと。
・適切なゴミ処理やリサイクルが実施されていること。
・環境や街並みを阻害しない建物や建築材料であること。
…など等、実に多くの条件をクリアしなければなりません。

また、長期滞在の人々を退屈させないための、さまざまな娯楽施設や運動施設も必要です。そのため、認定を受けたクアオルトには、およそ健康の回復を阻害するようなものはない…といっても過言ではありません。
クアの街は何事もクアの人々が優先で、車道を渡る時には車が止まってくれます。街のあちこちに、「静かに」という小さなプレートがさりげなく置かれています。

生活習慣病やストレス性疾患を改善には、悪い生活習慣やストレスなどの、心身にマイナスな生活要因から身を離す必要があります。そういった意味では、クアオルトは理想的な「治療環境」と言えます。
また、それぞれのクアオルトには、その土地の自然特性に応じて適応症の特徴があり、自分に適したクアオルトを療養の場所として選ぶことができます。

*クアオルトの案内書に、どのような病気の改善に適しているかが記載されています。

街全体が一つの医療センター

クアオルトは街全体が一つの医療センターとして機能しています。
街の中央には必ず広大なクアパーク(療養の公園)があります。クアパークが街の中央にある理由は、療養に欠かせない治療施設の一つだからです。(詳しくは後述)
その周りに、クアホテルやクアペンション、サナトリウム、専門病院、治療センター、飲泉館、温泉施設、スポーツ施設などが並んでいます。また、娯楽を提供する多目的な集会場(クアハウス)や、コンサートホール、ギャラリー、レストラン、カフェ、日用品のお店などがあります。
街の中心には車は入れず、憩いの広場や遊歩道、小川、噴水、花壇、休息用のベンチがあります。
クアオルトがそのような街づくりをする理由は、クアは滞在中の生活の全てを利用して行われるからです。

テル+クリニック+治療センター

クアの滞在施設には、クアホテル、クアペンション、サナトリウムなどがあります。それらは、ホテルとクリニックと治療センターが一緒になったものです。その多くには医師と療法師が常駐しています。
療養の人々はそこに滞在して、医師による診察、療法士による専門治療、また、食事療法、運動療法、植物(薬草)療法、精神療法、その他の必要な生活トレーニングなどを受けます。

療法師による専門治療には、クナイプ式水治療、泥浴治療、温泉浴治療、薬草浴治療、湿布、呼吸(水蒸気の吸引)療法、マッサージ治療、整体、鍼灸治療、各種物理療法・理学療法、光線療法などがあります。
また、多くのクアオルトにはオープンの治療センターがあり、そこでも療法師によるさまざまな治療を受けることができます。

緑の公園が治療センター

クアの街には、豊かな緑に包まれた広大なクアパークがあります。クアパークとは治療のための公園のことです。その使用には「クアの処方箋」が必用です。公園を治療に利用する…というと、不思議に思われるかも知れませんが、クアパークは自然環境を利用する巨大な治療センターなのです。
そこには、長い遊歩道や、広い芝生、樹木、水の流れ、噴水、花庭などがあり、たくさんのベンチが置かれています。スポーツ施設やサイクリングコースなどもあります。
療養の人々は、この公園をウォーキングや体操、日光浴、森林浴、呼吸療法、瞑想、リラクゼーション、あるいはジョギング、サイクリングなどに利用します。これらは全て治療法の一つなのです。そこで、クアパークには治療の効果を高めるためのさまざまな工夫がなされています。

例えば、テラインクアと呼ぶ運動療法のための遊歩道があります。その遊歩道の周りにはたくさんの樹木や緑の芝生、水の流れ、噴水、ベンチなどが配置されています。また、遊歩道には起伏の変化もあり、これらは全て治療効果を高めるためのものです。
樹木は空気を新鮮にするために、芝生や木々の緑はグリーンセラピーといって気持ち和ませるために、噴水はマイナスイオンで呼吸療法を助けるために、遊歩道の起伏は心肺機能や筋力を高めるために、ベンチは運動と休息のバランスを図るために…と、この遊歩道を歩くことがそのまま治療になる仕組みなのです。

太陽に向かって配置されたベンチは日光浴のために使用されます。日光浴には気持ちを明るくする、自律神経を調整する、ウツ病を改善する、カルシウムの吸収を助けて骨を強くする、運動能力を高める、皮膚を健康にする、免疫力を高める…などの作用があるため、クアにおける大切な治療法の一つです。

「クナイプ式水療法」の水槽もあります。身を切るような冷水に足や腕を浸す水療法には、免疫力や生理反応を高める効果や、自律神経を調整する効果があります。
草丈の長い芝生は「露草踏み療法」のためのものです。早朝に朝露で濡れた芝生を裸足で歩くことで、免疫力や体の生理反応を高めることができます。冬には、雪上を裸足で歩く治療法もあります。
また、薬草園や野菜園があり、薬草の知識や、食事療法のための野菜の有効性を学ぶことができます。

ちなみに、クアの治療プログラムの基本形とクアオルト(療養の街)の仕組みは、クナイプ自然療法の生みの親であるセバスチャン・クナイプ神父(1821~1879年)が作りました。公園を治療に利用するアイデアもクナイプ神父が考え出したものです。

ドイツで見直される自然療法

自然療法の長い伝統を保持してきたドイツですが、現代医学の発達によって、一時期、自然療法は古い医療というイメージを持たれていました。
しかし近年、生活習慣病や免疫疾患、ストレス性疾患などの治療が、現代医療だけでは難しいことが分かってきたため、改めて自然療法を利用して健康回復を図る人々が増えているといいます。
国の医療制度にも、「病気を未然に防ぐほうが、より経済的で、本人にとっても良いこと」という考え方があります。そこで、ドイツ政府をはじめとして、社会全体が体質改善にも有効な自然療法の啓蒙を熱心に行っています。
またドイツでは、自然療法は医学部の必須科目になっており、医師の国家試験にも導入されています。そして、多くの医師が自然療法による治療法を取り入れています。

自然療法と健康保険

ドイツには、公的な健康保険と民間(プライベート)保険がありますが、日本と違うのは、どちらの保険も現代医学による治療と、自然療法による治療の両方に適用されるという点です。そして、クアの治療費と滞在費は健康保険でカバーされます。

クアの治療を望んだ場合、まず、かかりつけの医師の診断書を元に保険の適用を申請します。治療にかかる費用の何割が保険で認められるかはケース・バイ・ケースですが、もし100パーセント認められた場合には、保養地までの移動にかかる交通費も全額保険で支払われます。

自分の体は自分で治せる

体の不調を覚えた時に、現代医学に頼るだけではなく、自然療法も選べるドイツの医療システム。薬を飲むばかりが治療ではなく、食事や運動、生活のリズムなどを学ぶことによって、能動的に病気を治し、再発を防ぐ。
「自分の体は自分で治せる」というドイツ国民の考え方と、それを支える「クア」という医療制度は、もっとも人間的な総合医療であると思うのですが、皆さんはどう思いますか?



# by na-toshihiko | 2010-07-26 17:32 | ドイツの自然療法・生活療法

ザスバッハ・バルデン

ドイツでもっとも美しい村
ザスバッハ・バルデン

南ドイツを東西に走る黒い森。
なだらかな山の斜面に続く果樹園。
その森の空気と、果実の香りの空気療法。
山の中腹から見下ろす景色は、まさにグリーンセラピー。
ここは州主催の「美しい村コンテスト」で一位に選ばれた村です。


森の空気の呼吸療法と
ワンダーリングの村

 
 南ドイツの西端。黒い森の終わりに位置する、陽光の村、ザスバッハ・バルデンは海抜二百メートルから千百メートルに至るなだらかな山の斜面にあります。その一帯にはブドウ、りんご、チェリー、プラムなどの果樹園や、緑の牧草地が延々と続いています。山襞には清水が湧いています。ザスバッハのバッハとは小川という意味。その清流が村の名の由来です。
村はずれの小川には古い小屋水車があり、ゆったりですが、水車は今も現役で働いています。
森の樹木や牧草地、ブドウ畑などが織り成す緑のパノラマの中に、農家の赤茶色の瓦屋根が、ポツリ、ポツリとアクセントを添えていて、じつにのどかで美しい村です。
 もちろん、ここには農薬も化学汚染もありません。ビニールハウスもありません。栽培されている果物や野菜は有機栽培。日光を存分に浴びながら、自然のままに育てられています。 

黒い森に浄化された空気。清水の流れが生み出すマイナスイオン。樹木が発するフィトンチッド。果樹の香り。そして森の地形。これらは呼吸療法、森林浴、運動療法にとって最適な環境なのです。
1969年、ザスバッハ村は「空気(呼吸)療法」の保養地として、また1979年には、もっとも気候の優れた国指定の「クナイプ自然療法・保養地」として認定されています。
なだらかな山の斜面と森の空気を利用した運動療法は、呼吸器や心臓・血管病などの療養に向いているとされ、ワンダーリングの地としても高い人気です。ワンダーリングとは、なだらかな山歩きのこと。
この村では、樹木から精油の採集もされています。

なだらかな山の斜面一体には、花の香り、果樹の香りが心地よく流れています。山腹の要所要所にはベンチが置かれ、遥か彼方のライン河、そしてフランス領に至るまでの緑の景観にひたることができます。まさにグリーンセラピー、アロマセラピーの世界で、緑の濃淡の余りの美しさに身も心も洗われる思いがしてきます。
そういえば、ドイツ人の最も好きな色は緑色です。


花で家を飾る
百年来の村のしきたり


村の建物は、急勾配の屋根を持つ木軸工法で、西南ドイツ・山間部の伝統の造りです。
家々の窓やテラスは、みごとに花で彩られ、家の周囲も草花でいっぱいです。花で飾る習慣は百年来の伝統といいます。村の建物は、バーデン・ヴェルグ州の景観保護条例により、異なる様式への改築は許されないのだそうです。
村のホテルやペンションも同様の造りで、その伝統建築が楽しみで訪れる観光客も多いといいます。
この地方は日光が豊富なので、ワインも美味しく、村特産のシュナプスというチェリーのリキュールもお勧めの一つです。
 道路から各家に向かうアプローチには、手づくりの牧歌的な郵便受けが立てられ、道端の無人の屋台には、自家製のジャムや果実酒が手製のラベルを身にまとって「ウチのがイチバン美味しいのよ…」と自慢そうに並んでいます。
 それにしても、この村の空気(香り)の美味しいこと…。


治療法の解説

◆森林浴+呼吸療法+ウォーキング
樹木が発するフィトンチッド(化学物質)や、森の樹木に浄化された空気には、心身の沈静作用と共に、カラダの本能(治癒力)を目覚めさせる作用があります。清水の流れが生み出すマイナスイオンも同様です。
森林浴の呼吸療法と、山の斜面を利用したウォーキング(運動療法)を組み合わせると
効果がさらに高くなります。
呼吸器や心臓・血管病、糖尿病、ストレス性の病気の改善に役立ちます。

◆グリーンセラピー
緑色は暖色(興奮)と寒色(沈静)のちょうど中間にあり、中性の性格の色です。そのため、緑色にはこころに安心感を与える作用があります。自然の緑に触れると、こころが休まるのはそのためです。
また、持久力、復元力をもたらし、ストレスや不安感などを解消する作用もあります。
人類が進化の過程で敵から身を守るために森に身を隠したことから、本能的に緑の森に安心感を覚える…ともいいます。


●地理案内

ザスバッハ・バルデン
バーデン・ヴュルテンベルク州の西端。なだらかな山の斜面にある、フランス国境の近くに位置する村。バーデンバーデンに近い。鉄道の駅はない。

Kurverwaltung im Kurhause Zum Alde Gott
TalstraSe 51 D-77887 Sasbachwalden
TEL 07841-1035-19433
FAX 07841-23682



# by na-toshihiko | 2010-07-26 17:17 | ザスバッハ・バルデン

バート・ノイエンナール

生命の温泉とファンゴ療法
バート・ノイエンナール

「生命の温泉」という名の巨大な温浴施設。
100年の歴史を誇る「自然療法・治療館」。鉱泥を利用した「ファンゴ療法」。
ドイツ中西部、ワインと渓谷で知られるアール川がライン河に注ぐ手前に、温泉保養地・バート・ノイエンナールがあります。


女性に人気の若がえりの街

バート・ノイエンナールには、ナトリウムやマグネシウムを含んだ36℃の炭酸泉が湧き出ています。近郊ではファンゴ療法に最適な「鉱泥」も採掘されます。鉱泥とは「泥の温熱療法」に使用される、鉱物質をたくさん含んだ土のことです。
現在、この街には二つの特徴的な施設があります。一つは「アー・テルメン(生命の温泉)」という名の巨大な温浴施設で、もう一つは百年の歴史を誇るバーデハウス(自然療法・治療館)です。
この街の療養メニュウには、健康回復やリラクゼーションにプラスして、美容と若がえりの治療が充実しています。そのため、療養客は中年女性が多く、街も施設もじつにエレガントなたたずまいです。


治療入浴と
リラクゼーション入浴


 まずは、温泉療法についてお話をしましょう。
 ドイツを始めヨーロッパの温泉湯治には、二つの方法があります。
一つは、温泉療法師の手を借りる「治療入浴」です。これには、強い水流を利用するマッサージ入浴、水中に電流を流す電気治療入浴、温めた泥に入る泥入浴などがあります。これらの治療は、個室で専用の治療用バスタブを利用して行われます。また、治療入浴はそれだけで治療が完了ということはなく、マッサージや整体療法、ハリ治療などの、いくつかの治療法と組み合わせて施されます。

もう一つ湯治法は、「37℃」の微温のお湯に長時間入り続ける「リラクゼーション入浴」です。この長時間入浴はヨーロッパに広く普及している湯治法です。ドイツにはそのための大規模浴場が全国にあります。


37度の微温浴が、
カラダの治癒力を引き出す


ここでは、二番目の湯治法の「37℃の温泉への長時間入浴」についてお話をしましょう。

37℃というお湯の温度は、熱いお風呂に慣れている日本人にとっては、とてもぬるい温度です。
それでは、なぜ「37℃」の微温水に入るのでしょうか。
37℃のお湯への入浴は、入っている人の体温を36度ほどに保ちます。カラダがもっとも安静した状態の体温で、睡眠中のそれと同じです。また、胎児が母親の羊水の中で眠っているのと同じ条件でもあります。そのため、長時間入っていても疲労することなく、リラクゼーションすることができます。

次に、なぜ長時間入るのかについてです。
入浴には、水の「浮力」によって心身の緊張をほぐす効果があります。全身の緊張がほぐれてリラックスすると、次第に疲労は回復。やがてカラダの中では「修復」や「自己治癒」の活動が動き始めます。これは、睡眠中に行われる「修復」や「自己治癒」と同じことです。
また、水には「水圧」があります。その水圧が適度に血管を圧迫するので、血液の循環がスムーズになります。益々、「修復」や「自己治癒」の活動がしやすくなります。
そして、カラダの自己治癒を十分に引き出すためには、3時間ほどの「長時間入浴」が必要です。また、長時間入ることで理想的なリラクゼーションを得ることもできます。
その上、温泉の成分に塩分(ナトリウム・マグネシウム)が含まれているならば、これこそ天然の「羊水」で、皮膚に負担をかけずに、また快適に何時間でも入っていることが可能です。

このような理由から、「温泉」+「37℃」+「水の浮力」+「水圧」+「長時間入浴」という入浴法が行われるようになりました。
この微温の長時間入浴は、最高のリラクゼーションとカラダの再生を図るための、とても科学的な湯治法なのです。

一方、日本の温泉入浴は、一般的に39度以上の高温浴です。この温度のお湯に長時間入ると、リラクゼーションどころか、カラダは余計に疲労することになります。そのため、日本では短時間入浴が普通です。

*自己治癒の活動
自己治癒の活動は睡眠中に行われます。
睡眠は90分の周期の中で、深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)をくり返します。そして、一回目と二回目の深い睡眠の時に、自己治癒の活動がもっとも活発になります。その間の睡眠時間は3時間です。
微温の長時間入浴は、睡眠と同様に、自己治癒の活動を引き出す入浴法です。

*ドイツ人と日本人の体感温度の違い
ドイツ人は肉食系なので、日本人に比べて寒さに強い民族です。
37℃の微温水は、日本人にとってはかなりぬるく感じられます。日本人が家庭で行う場合は、38℃弱ぐらい(冷たくなく、汗が出ない温度)が適温です。ただし、これも季節によって若干の温度調整をしながら入ることをお勧めします。

*温度と入浴時間によって生理的反応は異なる
入浴の効果は、お湯の温度と入浴時間、また入り方によって、大きく異なります。
詳しくは、別添資料をご覧ください。


「生命の温泉」で
リラクゼーションとカラダの再生


ここ、バート・ノイエンナールには「アー・テルメン(生命の温泉)」という名のテルマル・バード(温泉施設:スパ)があります。流線型の大屋根を持つモダンな建造物で、この街を代表する療養施設の一つです。
天井の高い広い館内には、大小いくつもの温泉プールがあります。それぞれの浴槽には、カラダの緊張をほぐすための噴流や、落水、流水、気泡浴などのさまざまな機能が設けてあります。
湯治客はこの37℃の温泉に、何時間も浸かりながら、思い思いのリラクゼーションの時を過ごします。
また、入浴とともにこぞって日光浴をします。日光浴には、ウツ病や骨粗しょう症、乾癬の予防、免疫力の強化、気持ちを明るくする…などの効果があるからです。そのため、温泉プールは屋外の芝生の庭にも延びていて、温泉に浸りながら日光浴することができます。
ドームの中二階には、日光の少ない季節のために、太陽光線と同じスペクトルに設計された人工光線の光線浴装置がたくさん並んでいて、いつでも人工日光浴が可能です。


温冷の交互浴で自律神経を調整

「アー・テルメン」の温泉プールの下のフロアは、カラダの生理能力を高めるためのフロアです。温度違いのサウナや、冷水浴槽、リラクゼーションスペース、マッサージルームなどが並んでいます。

ドイツ(北ヨーロッパ)では高温浴にはサウナを利用します。サウナ室は温度別に複数あり、スチームサウナもあります。
サウナの利用法は、最初にサウナに数分間入ってカラダを温め、続いて短時間の冷水浴でカラダに刺激を与えます。その後、水分を補給しながら、寝椅子で15分ほどのリラクゼーションをして、カラダが平穏に戻るのを待ちます。そして、この「高温浴+冷水浴+リラクゼーション」の組み合わせを数回くり返します。

高温浴と冷水浴の組み合わせは、交感神経と副交感神経を交互に刺激して、自律神経のリズムを調整する治療法です。
北ヨーロッパでは冬が長く、その間、日照時間や日照量が低下するため、自律神経のリズムに障害がおきます。その結果、季節性ウツ病や睡眠不良などに悩む人が多くなります。そこで、その改善や予防のためにサウナが利用されます。
 また、サウナの温冷交互浴には、新陳代謝の促進や、免疫力の強化などの効果もあります。高温と冷水による皮膚への交互刺激は、皮膚の持つさまざまな機能を強化し、肌の老化防止にも役立ってくれます。
サウナは汗を出すためのものではなかったのです。

*大量発汗の注意
大量の汗をかくと、皮膚が疲労してダメージを受けます。それを防ぐためには、ニンジンジュース(ベータカロテン)がお勧めです。

*ドイツでのサウナ浴
 ドイツでは温泉プールには水着を着用しますが、サウナ浴は全裸で男女混浴です。
 初めての方にはビックリですが、知っておいてください。また、必ずバスタオルを敷いてその上に座ります。汗でベンチや床を汚さないためのマナーです。


東西の治療法を集めた
治療と若がえりのバーデハウス


ロマネスク様式を思わせるエレガントなバーデハウス(治療館)は、この街を象徴する施設の一つです。館内の色彩は淡いベージュに統一されていて、かすかに音楽が流れています。ロマンチックなガラスの器には「香」が焚かれ、ところどころに「静かに」というプレートが掲げてあります。本当に静かです。長い廊下の両側には、治療室が整然と並んでいます。
純白のバスローブを着た療養客が通り過ぎます。次の治療室に移動する人、あるいは、すべての治療を終えてホテル棟に帰る人です。時折、治療師さんがファンゴ療法の温かい泥を入れたバケツを、長い引き手の古風なカートで引いていきます。
 まるで、時間が止まったような錯覚を感じます。

この治療館ではヨーロッパ各地の自然療法を始め、中国の漢方、インドのアーユルベーダ、最新の物理療法などの治療法を受けることができます。
水の刺激を利用するクナイプ式水療法、温めた鉱泥を利用するファンゴ療法、薬草を利用する植物(ハーブ)療法、炭酸泉の入浴療法、ワインの酢療法、呼吸(吸引)療法、各種マッサージ、ハリ、灸、中国漢方、光線療法、電気療法、運動療法、水中運動療法、食事療法…など等、百種類もの治療法が用意されています。
これらの治療法は、個別の病状に合わせて、いくつかを組み合わせて施されます。その組み合わせはクアドクター(療養医)によって処方されます。
館内にはクアドクターが常駐していて、ビジターにも目的(症状)に合わせた治療プログラムを処方してくれます。
また、この治療館には、女性客のためにスキンケアや若がえりのトリートメントが用意されていて、女性の療養客に大人気です。
カラダは元気に、若々しく、そして肌は美しく生まれ変る…。そんな夢をかなえる治療館です。

治療にも美容にも効果を発揮する
ファンゴ療法


さまざまな治療法の中でも、バート・ノイエンナールを代表する治療法の一つはファンゴ療法です。ファンゴとは火山性の鉱泥のことで、それには鉄分を始めさまざまな鉱物質が含まれています。そのため、保温性や熱の浸透性にとても優れているといいます。

ファンゴ療法は、その鉱泥に、さらにハーブを混ぜて発酵分解させたものを使用します。その泥を約40℃に温めて、最初は背骨から背中全体に、続いて全身に厚く塗り、シーツと毛布でぐるぐる巻きにされてベッドに横たわります。カラダが温まってくると発汗が始まり、全身がビッショリになります。約30分間の温熱・発汗の後、シャワーで泥を落とし、ハーブティーで水分を補給。一休みします。続いてマッサージなどの治療を受け、最後はベッドでぐっすりと眠りにつきます。
 治療後の睡眠には、とても重要な意味があります。この間に、カラダの修復や自己治癒の活動が行われるからです。

ファンゴ療法には、血管を広げて血液循環を高める、新陳代謝を高める、背骨を支える筋肉の緊張をゆるめて神経の伝達を良くする、脊髄の造血活動を高める、リンパ液の循環を高める、免疫反応を高める…などの生理作用があります。
そして、リウマチなどの免疫疾患、神経痛・関節痛などの改善、老化による身体機能の回復などに加えて、若がえりや美肌効果もあるといいます。

アール川を上流に進むと

 アール川を上流に少し進むと、ローマ時代の入浴場の遺跡があります。河畔の南側に面した山の斜面にはブドウ畑が続いています。この地方では、美味しいワインが醸造されます。
さらに進むと、城壁で囲まれた中世そのままの小さな街があります。街の名はアール・バイラー。門をくぐると、中世そのままの古い建物が並んでいます。各々の建物の軒先から突き出たポールに、長い丈の旗がはためいています。まるで、おとぎの国に迷い込んだような美しさです。広場にはカフェやレストランが並んでいます。石畳の脇には人工の水路があり、澄み切った水がとうとうと流れています。
バート・ノイエンナールに療養に訪れた熟年のご夫婦には、青春時代の情熱を再び蘇らせてくれる、とてもロマンチックな街です。
 

治療法の解説

◆ファンゴ療法

鉱物質の泥とハーブを混ぜて発酵分解した泥を温めて全身に塗り、シーツと毛布でぐるぐる巻きにして発汗させる温熱療法。
ファンゴ療法には、血行を促進して代謝を高める、背骨の筋肉の緊張をゆるめて神経の伝達を良くする、脊髄の造血活動を高める、免疫反応を高める、自律神経の調整を図る…など、多くの生理活性作用があります。
リウマチなどの免疫疾患、神経痛・関節痛の改善、自律神経の調整、身体機能の回復などに加えて、若返りや美肌効果もあります。

◆37℃のリラクゼーション入浴
37℃の微温への長時間入浴には、心身の緊張をほぐして体を安静状態にし、睡眠と同じように、疲労回復と共に、体の治癒力を引き出す作用があります。

◆温冷交互入浴
サウナによる温冷交互浴は、交感神経と副交感神経を交互に刺激して、自律神経のリズム調整を図るものです。
自律神経失調症の改善、季節性ウツ病の予防・改善、免疫力の強化、運動不足の解消などの効果があります。
また、高温と冷水による皮膚への交互刺激は、皮膚の持つさまざまな機能を強化し、肌の老化防止にも役立ちます。

●地理案内

バート・ノイエンナール
ラインラント・ブファルツ州の北部に位置し、ノルトライン・ヴェストファーレン州との州境にある温泉保養地。かつての首都ボンから車で三十分の距離で、鉄道のアクセスもある。

AKTIENGESELLSCHFT BAT NEWENAHR
KugartenstraSe 
Bad Neuennahr-Ahrweiler 
TEL 02641-801-219
FAX 02641-801-146



# by na-toshihiko | 2010-07-26 16:02 | バート・ノイエンナール

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